2019年12月19日 朝日新聞デジタル「重い違反歴ない」80歳衝突 聖夜前、娘は亡くなった

2019年12月19日付け朝日新聞デジタルでインタビューを掲載いただきました。

「重い違反歴ない」80歳衝突 聖夜前、娘は亡くなった
高齢者による交通事故で亡くなった長女の稲垣聖菜さんの遺影を見つめる母の智恵美さん。安全対策を求め、ブログで署名活動を続けている=2019年12月12日、さいたま市緑区、八木拓郎撮影
高齢ドライバーの交通事故対策で、警察庁が19日に明らかにした道路交通法の改正試案に、運転技能検査(実車試験)と安全運転サポート車限定の免許の導入方針が盛り込まれた。高齢者による事故で家族を失った遺族は「悲惨な事故を減らせる実効性のある制度にしてほしい」と訴える。      
 さいたま市の稲垣智恵美さん(50)の長女聖菜(せいな)さん(当時15)は2015年12月23日、市道の左端を歩いていて後ろから来た車にはねられ、車と道路脇のポールに挟まれた。運転していたのは80歳の男性で、前方の渋滞の車列に接近中にブレーキとアクセルを踏み間違え、車を急加速させながらハンドルを左に切り、前部で聖菜さんに衝突した。
 聖菜さんは搬送先の病院で亡くなった。16歳の誕生日を迎える2日前だった。
 事故から4年。高齢者による悲惨な事故は後を絶たない。「運転能力が不十分な高齢者が免許を所有できる状況が続き、たくさんの大切な命が奪われた。いつになったら制度が変わるのかという憤りがあった」
 稲垣さんは事故後にブログ(http://seina.jp
)を開設。75歳以上の免許の有効期間を1年にすることや、更新時にシミュレーション装置で運転能力を客観的に評価し、基準に満たない人には更新させないことなどを求め、署名活動をしてきた。聖菜さんの同級生も協力した。
 稲垣さんは今回の試案について、「時間がかかり過ぎでもどかしさを感じるが一歩前に進んだとは思う。社会の理解が深まってきた証拠だ」と評価した。一方、運転技能検査を一定の違反をした人に限る点については「裁判で、娘の命を奪った男性には重大な違反歴がなかったと知った。今回の案では検査の対象にならないのではないか。全員に受けさせなければいけない」と指摘。「命を守ることを最優先に議論し、法案を作って欲しい」と話した。
安全運転サポート車に限った免許は「期待が大きい」としつつも、「国や自動車メーカーは、万能でないことの周知をより図るべきだ。事故を起こさないと誤解されたら運転手の油断につながり、事故が増える危険性がある」と訴えた。
「操作の誤り」と「前方不注意」
 交通死亡事故全体は減少しているが、高齢者による事故は増加傾向にある。
 警察庁によると、75歳以上の運転者による死亡事故は年間400件台で推移。昨年は460件、うち80歳以上が252件だった。死亡事故全体に占める75歳以上による事故の割合は14・8%で、前年より1・9ポイント上昇した。
75歳以上が運転する四輪車の事故の人的要因を見ると、「操作の誤り」と「前方不注意」がそれぞれ約30%を占める。操作の誤りでは、ハンドル操作ミス、ブレーキとアクセルの踏み間違いが多く、75歳未満による事故と比べ割合が高い。
 運転免許の自主返納は年々増加。昨年は約42万1千件に上り、5年間で約2倍に増えた。うち約40万6千件が65歳以上だ。
高齢者の運転「危ない」は8割超
 高齢運転者による事故防止策の在り方を探るため、警察庁は有識者会議を設け、調査を続けてきた。
 今年9~10月にネットを通じて行ったアンケートでは2千人から回答を得た。高齢者の運転について、ニュースで見たり実際に目にしたりして「危ないと思う」人は85%。その60%が「運転能力が不十分な高齢者の運転はやめさせるべきだ」、24%が「違反や事故を起こした高齢者の運転はやめさせるべきだ」と答えた。また、全体の80%が免許制度の見直しや改善を求め、うち66%が「運転能力が不十分な高齢者は免許証を更新できないようにするべきだ」を選んだ。
 有識者会議では海外の免許制度も調査。高齢者が更新する際の実車試験は米国やカナダ、オーストラリアの一部の州などで実施されており、不合格者の免許を取り消すところもある。限定免許の条件は、運転場所を自宅周辺としたり、昼間の時間帯に限ったりするなどがあった。
 また、公共交通の足が乏しい地域を抱える地方自治体への聞き取りも実施。自家用車が高齢者の生活に欠かせない実情の中、タクシー券の補助や町の主要施設を循環するバスの運行などの取り組みが首長らから紹介された。
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 一方、政府は、65歳以上のサポカー購入時に最高10万円を、踏み間違いによる加速を抑制する装置の後付けに最高4万円を補助することを決めた。今年度補正予算案に盛り込み、19日の関係閣僚会議で報告した。(八木拓郎、編集委員・吉田伸八)
高齢運転者による近年の主な死亡事故 ※年齢は当時
2016年10月 横浜市で集団登校中の小学生の列に男性(87)の軽トラックが突っ込み、児童1人死亡、4人けが
  18年 5月 神奈川県茅ケ崎市の国道で女性(90)の車が信号無視で横断歩道の歩行者らをはね、1人死亡、3人けが
  19年 4月 東京・池袋の都道で男性(87)の車が暴走。横断歩道上の母子2人が死亡したほか、歩行者ら8人が重軽傷。男性と80代の妻もけが
  19年 6月 福岡市の市道で男性(81)の車が暴走し、車5台や歩行者と衝突。8人重軽傷、男性と妻(76)が死亡
高齢運転者対策をめぐる道路交通法改正試案のポイント
・事故歴や一定の違反歴がある高齢者に運転技能検査(実車試験)を導入。不合格者は運転免許を更新できない
・高齢者講習の実車指導に技能の客観的評価を導入
・安全運転サポート車だけ運転できる限定免許を導入

https://www.asahi.com/articles/ASMDM5FSMMDMUTIL031.html